Keyz - 下弦荘事件

2010年7月13日 (火)

Keyz - 下弦荘事件 #02

「…それで?相談事っちゅうんは何なんや?萌ちゃん」
高校の目の前にある喫茶店"ライム"の一席を、烈馬、駿人、湊、そして萌が囲んでいる。
「えっと…実は…」樽見沢萌は、恐る恐る口を動かす。「2ケ月前、私の祖父が癌で亡くなったんですけど…」
「なるほどっ、殺人事件っちゅうことやな?!」テンション高く立ち上がる駿人。「どんなトリックでじいちゃんが殺されたか烈馬に解明して欲しいと」
「言うてへんから」駿人の頭を叩(はた)く烈馬。「大体、今の萌ちゃんの話聞いてたか?しっかり"癌で"って言うてたやないか」
「いややなぁ、冗談や、冗談☆」屈託のない笑顔を向ける駿人。「で?続きは?」
「さっそく初瀬川(はせがわ)先輩が話の腰を折ってるような気がするんですけど…」湊が小さくツッコむ。
「あ、えっと、確かに祖父の死には特段問題になるような部分はありませんでした。癌を告知されたのは昨年のことでしたし…」萌は再び視線を落とす。「ただ…」
「…ただ?」烈馬がやさしく問い返す。
「問題だったのは、それから丁度1ヶ月後のことなんです…祖父の知り合いだという弁護士が祖父の家に訪れてきたらしいんですけど…」
「え?てことは萌ちゃんは、そのおじいちゃんの家には住んでいないんですか?」湊が尋ねる。
「あ、うん…ていうか私は祖父の家には何回かしか行ったことないかな…祖父の家、車で何時間もかかるし…」
「で?その弁護士がどないしたんや?」烈馬が話のベクトルを戻しにかかる。
「あ、はい…そんなわけで、これは父が聞いた話の又聞きになっちゃうんですけど…その弁護士は、自分は祖父の遺言状を預かっている、死後1ヶ月たったら遺族にその遺言状を公開するように生前言付かった、と言ったそうなんです」
「遺言状ねぇ…樽見沢ン家って、そない金持ちなん?」アイスティーのストローを弄びながら言う駿人。
「あ、えっと…祖父は一代で会社を興したので、或る程度財は成していたみたいです…祖父の家も結構大きいらしくて、周囲の人からは"下弦荘"と呼ばれて知られているそうで…」
「"下弦荘"…?」烈馬が言う。「また随分ロマンチックな名前やな」
「何でも、竣工した日が下弦の月の頃だったらしくて…あと祖父の会社のロゴも下弦の月の形だというのもあったみたいですけど…」
「でも…」と湊。「それだけお金持ちだったら、遺言状くらいあっても可笑しくないんじゃないですか?」
「あ、その…問題だったのは、その文面なんです…」
「文面が…?」

2010年7月 5日 (月)

Keyz - 下弦荘事件 #01

「あー、めんどいーーー」
生徒会室に響くへしゃげた声。声の主である金髪の青年は机に突っ伏す。
「…駿人(はやと)君、そないなところに頭置かれると仕事がはかどらへんねんけど」
茶髪の青年は鬱陶しそうにそう言うと、書類の束で駿人と呼ばれた青年の頭を小突く。
「だって烈馬(れつま)、世間はゴールデンウィークやで?せやのに何が楽しゅうて生徒会室でこないな雑用せなあかんねんー」
「五月蠅いなぁ…もうちょっとで終わるんやからグダグダ言わへん」烈馬と呼ばれた茶髪の青年は、手も動かしながら滔々と続ける。「それにまだ連休3日あるんやから」
「そんなこと言うたかて…なぁ、園川(そのかわ)もそう思うやろ?」駿人は顔を上げ、隣で作業をしている女子生徒に振る。
「うーん…まぁ私は構わないですねー。麻倉(あさくら)先輩は今日から推研の合宿で居ないですもん」
「湊(みなと)ちゃんはホンマに麻倉君のことばっかやな…」烈馬は呆れ顔で、湊と呼ばれた女子生徒にツッコむ。「生徒会に入ったんも麻倉君と一緒に居たかったからなんやろ?まぁ、麻倉君は今年居てへんけど」
「そういや烈馬もその、推研やっけ?それの合宿行くんやなかったんか?」駿人が言う。
「確かに千石(せんごく)部長や麻倉君にはめっちゃ誘われてんけどなぁ…生徒会の仕事もあるしお断りしたんや」
「ふーん…流石は生徒会長様やなぁ」
「あ、あのー…」一人の女子生徒が、小さく手を挙げながら言う。
「ん?何や?樽見沢(たるみざわ)」駿人が問いかける。
「会長って…推研に入ってるんですか?」樽見沢と呼ばれた女子生徒が恐る恐る訊く。
「んー、まぁおれは正規メンバーやないけどな」烈馬は淡々と言う。「生徒会と掛け持ちは流石にキツイし」
「でも矢吹(やぶき)先輩達ってすごいんですよー」園川が自慢げに言う。「学校の内外で起こった事件をいっぱい解決しちゃってるんですー。特に普段ヘタレな麻倉先輩が推理を披露する時の凛々しい感じとか堪らないですー♪」
「いや、今麻倉君関係あれへんから」
「でもそやなぁ…さしずめ"会長は名探偵様!"って感じやな」笑って言う駿人。
「いやいや、どこの少女漫画やねんて」
「名探偵、ですかぁ…」樽見沢が呟くように言う。
「いやいやいや、萌(もえ)ちゃんもあっさり受け入れんといてって!」
「流石学校一のツッコミキャラの烈馬やなー」駿人はそう言って、樽見沢の方を向く。「…もしかして樽見沢、烈馬に何か相談したいことでもあるんちゃう?」
「えっ…」顔を赤くする樽見沢。「な、なんでわかったんですか…っ?」
「そうなん、萌ちゃん?」烈馬も樽見沢の顔を覗き込む。そして一つ溜息をついて言う。「…ほなあれやな、後で"ライム"でお茶でもしよか」