イケメン?俳優・五月女璃玖の事件ファイル - 呪いの歌殺人事件

2010年8月22日 (日)

イケメン?俳優・五月女璃玖の事件ファイル - 呪いの歌殺人事件 #05

初対面の壱弥に自分が女だとバレてしまったのでは、とビクビクしていた次の瞬間、壱弥は璃玖の胸元に手をやった。
「ひっ…?!」
思わず顔を赤らめ、ヘンな声を出してしまう璃玖。そして、壱弥が口を開く。
「…ま、そんなワケねっか。こんな色気なくてペッタンコな女なんて居るわけねえもんな。アハハ」
 
「……」
璃玖は自分の血管がプチンと切れる音を聞いた気がした。
次の瞬間、璃玖は壱弥の腕を掴み、肩の関節を極める。
「いっ、痛たたたたたっ!な、何で俺初対面の相手に関節決められてんのっ?!」
「うるさいっ!何でもねぇっ!!」
「何でもないのに何で痛い目にっ…?!」
 
「…あらァ、早くも仲良くなっちゃってェ…」
ドアの外から2人の様子を眺めていたモモコが、ぽそりと呟いた。
「仲良くないッ!!」
璃玖は壱弥の腕を掴んだまま叫ぶ。
 
「えー、今回のプロジェクトでプロモーションその他の業務を担当させていただく八雲です」
何事もなかったかのように打ち合わせが始まる。璃玖の顔は依然不機嫌そうだ。
「私の隣に座っておりますのが、今回の楽曲製作を担当する弊社の副社長・十河利明(そごうとしあき)です」
スーツに身をまとった十河が、小さく会釈をする。
「曲のテーマや音域などを打ち合わせた後楽曲制作に入り、その間お二人にはボイストレーニングを行っていただきます。そしてレコーディングにサンプリングを行い、CDリリースの前後には音楽雑誌や歌番組でプロモーションを行っていただくという流れになっております。お二人のほうから、何か質問はございますか?」
「あ、じゃあ一つ聞きたいんだけど…」璃玖が挙手する。
「何でしょう?」
「なんでこの人選にしたんですか?オレ達初対面で合うかどうかも分からないし、コイツと違ってオレ歌の仕事とかしたことないし…」璃玖は対面に座る壱弥に軽く目をやって言う。「全っ然上手くいく気がしないんすけど」
「早くも"コイツ"呼ばわりかー…もしかしてオレ璃玖に嫌われてる?」壱弥は隣に座るマネージャーに問いかける。
「どーせまた、要らんことでも言うたんでしょ」マネージャーは冷たくあしらう。
「そうですねー、まぁ今回この組み合わせを決めたのは僕と副社長、それと此処には居ませんが社長の三人なんですけど、二人の雰囲気がどことなく合いそうかなーと思ったんですが…」八雲は微笑みつつも困ったような顔を見せる。「…ダメそうですかね?」
「…まぁ、オレはコイツ次第ですけど?」ため息交じりに言う璃玖。
「うーん、せめて名前で呼んで欲しいんだけどなぁ」と壱弥。「俺はこの仕事、結構楽しみにしてるんだけどな。歌の仕事をしたことあるっつっても、CD出したり歌番組出たりはしてないし、それに何より、俺は璃玖と一緒に仕事してみたかったからな」
そう言うと壱弥は、テーブル越しに手を差し出す。
「よろしくな、璃玖」
壱弥の見せる笑顔に、璃玖は思わず顔をそらしてしまう。
「なっ…何だよそれッ…」
ためらいながら、璃玖は壱弥と握手を交わした。
「…ま、何はともあれ決まりってことだな」十河は"やれやれ"といった表情で言った。

2010年8月 3日 (火)

イケメン?俳優・五月女璃玖の事件ファイル - 呪いの歌殺人事件 #04

移動中、璃玖は携帯電話から某フリー百科事典で「神城壱弥」について調べてみた。
有名な時代劇俳優の神城京助(きょうすけ)を父に、アメリカ人と日本人のハーフである元歌手のケイト・ヴァーミリオンを母に持つ神城は、3歳で子役劇団に加入。5歳にはテレビドラマに出演していたらしい。
小学生が多くレギュラー出演するバラエティ番組で人気を集め、13歳で大物監督が手がける長編アニメーション映画で主演に抜擢。現在はドラマや声優、そして子役出身の二世タレントらしからぬ奔放なキャラクターでバラエティ番組にも多く出演している。
ただし、テレビで父親の神城京助の話をすることは一度もないという。
(…とはいっても、何度かテレビで見た印象ではホントに頭悪そうなただのガキみたいな感じなんだよなぁ…オレと同い年だってことも今まで知らなかったし)
そんなことを思っていると、璃玖は車が見慣れぬビルに到着したことに気づいた。
 
「いらっしゃいませ、五月女璃玖さんとそのマネージャーさんですね」
車を降りた璃玖を出迎えたのは、縁なし眼鏡にネクタイ姿の男だった。後ろに括られた長い黒髪と右の目尻にある泣き黒子が印象的だ。
「僕はこのサウンドフォレストのスタッフをしています、八雲大地(やくもだいち)と申します。神城さんたちは中でお待ちですよ」
八雲は爽やかな笑みを向ける。
「アタシは駐車場に停めてくるから、璃玖ちゃんは先に壱弥くんのトコに行っててね」
そう言うとモモコは車を進めて行ってしまった。
「さあ、こちらへどうぞ」
璃玖は相変わらず人が良さそうに笑う八雲に連れられて、ビルの中へ入っていった。
 
「失礼します、八雲です」
応接室の前に着くと、八雲は折り目正しくノックし発言してからドアを開けた。
「五月女璃玖さんをお連れいたしました」
八雲の開けたドアを入った璃玖は、応接室の中に一人座っている青年の姿を認めた。テレビで見たことがある神城壱弥そのものだった。
「あ、どうも…五月女璃玖です…」
同い年とはいえ一応相手の方が芸歴は何倍も上。璃玖は軽くお辞儀をして見せる。
壱弥は少し驚いたような顔をしていたが、すぐにその表情を綻ばせて立ち上がる。
「…って、同い年だよねぇ?そんなかしこまらなくていいって」
璃玖のほうへ歩み寄った壱弥は、璃玖の姿をまじまじと見る。
「…え、な、何、ですか…?」
「…前から思ってたけど、あんた、本当にオンナみてえだよなぁ」
 
(えっ、バレてる…?!)
璃玖の身体は一瞬びくんとなった。

2010年7月20日 (火)

イケメン?俳優・五月女璃玖の事件ファイル - 呪いの歌殺人事件 #03

事の始まりは、中学の修学旅行で初めて東京に来た時のことであった。
幼馴染の繭美(まゆみ)と私服で原宿を歩いていた時、芸能事務所の男性にスカウトされた。
その時ジーンズを履いていたこともあってか、璃玖は何の疑いも無く少年だと思われていたようだった。
その事を事務所に着いてから必死で説明し、社長(女性)の前で半裸になって見せてようやく信じてもらえた程である。
少年のモデルを探していた男性スタッフは諦め顔だったが、社長は自信を持ってこう言い放ったのだ。
「あなた、男の子としてデビューしなさい」
社長の言い分(ぶん)によれば、今の若い男性タレントはどれも女々しくて面白味がない。むしろ元々女である璃玖のほうがかえって男らしくウケるのではないか、とのことだった。
結局、璃玖は中学校を卒業すると同時に上京し、女であることを伏せてモデルとしてデビューした。
それから間もなく、雑誌で璃玖を見かけたドラマの制作スタッフが「この子をドラマに使ってみたい」と言いだしたことを機に俳優業に進出。この春からはミステリドラマで主演の名探偵・冬月数真を演じ、あれよあれよと人気タレントの仲間入りとなってしまったのだった。
幸い璃玖は元々自分のことを「オレ」と呼ぶ人間だったし、繭美たち地元の知り合いにも快く理解してもらい口止めをしてもらっているため、璃玖が女であることは社長やマネージャーの漆原(うるしばら)モモコなど事務所の一部のスタッフしか知らないのである。

 

「で?次は何処に行くの?」
モモコの運転する車の後部座席から、璃玖が問いかける。手元には来週撮影分の台本が開かれている。
「次はねェ、サウンドフォレストよ」
「サウンドフォレスト…?」璃玖は台本から視線を上げて言う。「それって確か、レコード会社だよね?なんでオレがそんなトコに?」
「あれ?言ってなかったっけェ?今度璃玖ちゃん、CDデビューすることになったのよォ」
「…はあ?!」思わず運転席に身を乗り出す璃玖。「全っ然聞いてないんだけど?!」
「あー、ごっめェん」モモコは運転しながら璃玖に目配せして言う。「ちなみにデュエットだから。神城壱弥(かみしろいちや)クンと」
「神城って…あの頭悪そうな俳優の?」不満そうな顔でバックミラー越しにモモコを見る璃玖。
「頭悪そうって…ま、今からその神城クンと打ち合わせだから。よろしくねェ」
「…なんかイヤな予感しかしないんですケド」璃玖は小さく呟いた。

2010年7月13日 (火)

イケメン?俳優・五月女璃玖の事件ファイル - 呪いの歌殺人事件 #02

「いやー、良かったわよォー、璃玖(りく)ちゃーん」
撮影スタジオの廊下をすたすたと歩く若い俳優と、後に続くそのマネージャー。背丈はマネージャーのほうがかなり高い。
「はいはい、ありがとモモコさん」
璃玖と呼ばれた俳優は振り向きもせず答える。
「情無(つれな)いわねェ、今日はなんかこう、いつもよりシュッとしてる感じがして、アタシは好きだったけどなァ」
「そう?オレはそうでもないけど。大体、停電になるほどの大嵐って設定なのに、決め台詞のタイミングだけ月明かりが差すなんて不自然じゃん」
「いやいや、それが名探偵・冬月数真(ふゆつきかずま)のお約束ってヤツじゃない」モモコと呼ばれたマネージャーはニコニコしながら言う。「それにほら、奥野蝶子(おくのちょうこ)だって璃玖ちゃんにベタボメしてたんだからァ」
「奥野…?ああ、あの被害者役のオバサンね」璃玖は自分の楽屋のドアに目を遣りながら、依然素っ気無く言う。
「そうよォ、何でも彼女、璃玖ちゃんの大ファンらしくってね」楽屋の鍵を開けながら言うモモコ。「今度プライベートで食事でも行きたいとまで言ってたんだから」
「カンベンしてよ」璃玖はモモコが開けたドアを入る。「オレ、そういう趣味ないから」
「もォ、この世界、お付き合いは大事なのよォ?」後に続いて楽屋に入るモモコ。
「でもモモコさんだって、オレに恋人とか出来たらマズイでしょ?」そう言うと璃玖は、冷蔵庫からミネラルウォーターを出して口に運ぶ。
「そりゃ、アタシの璃玖ちゃんに手を出すヤツが出てきたら困っちゃうわよォ~」モモコは恥ずかしそうに顔を手で隠す。
「…それはマネージャーとしてって意味で受け取っといていいんだよね…?」ミネラルウォーターを冷蔵庫に戻しながら言う璃玖。「モモコさん、生物学上は一応男だし…」
「璃玖ちゃんリアクション薄すぎィ」頬を膨らませて言うモモコ。
「かわいコぶっても駄目だから」璃玖は呆れ顔で言う。「そうじゃなくて、オレに"彼氏"が出来たなんてバレたら、それこそマネージャーとしてマズイでしょって意味。ほら、オレ着替えるから」
「はいはい、分かってるって」モモコはそう言うと、楽屋からゆっくり出て行く。「部屋のすぐ外に居るから、終わったら呼んでね」
「うん」璃玖はモモコが扉を閉めたのを確認すると、徐にシャツのボタンに手をかける。
シャツの下から露(あら)われた若い肌には、白いブラジャーが纏われていた。

 
「あれだけ男勝りなのに、男に裸を見られるのはイヤだなんて…」
モモコは部屋の外で、周囲に聞こえない程の声で呟いた。
「やっぱり中身は歴(れっき)とした16の女の子なのよねェ…」

2010年7月 5日 (月)

イケメン?俳優・五月女璃玖の事件ファイル - 呪いの歌殺人事件 #01

「…つまりこのトリックを使えば、犯人はアリバイを手にしながら奥さんを殺害することが出来るってことさ」
雷が唸る絶壁に建つ古びた洋館。その居間の中心に少年は立ち、自信に満ちた表情で語る。
「ということは…誰もが奥さんを殺すことが出来たってことに?!」
「おい、君は分かっているのか?誰が妻を殺したのか…」
「ああ、心配ない」少年は凛とした目で言い放つ。「論理は、真実を縛り付けるのさ」
少年は部屋の入り口に立っていた警官に目をやる。それが合図だったのか、警官は少年の元まで歩み寄ると、小さな紙片を手渡した。
「そして、こいつがその決め手…奥さんが残したダイイング・メッセージだ」
「ダイイング・メッセージって…それ、遊佐(ゆさ)さんの名刺じゃないの」
「ぼっ、僕じゃない!君まで僕を疑うのか?!」遊佐は少年に詰め寄る。「君だって言っていたじゃないか!奥さんが亡くなった寝室はあの時雷による停電で真っ暗。そんな中で、机の上に置かれた何枚かの名刺の中から僕の名刺だけを選び取るなんて不可能だって!」
「ああ。だからこいつは、遊佐さんを示してるわけじゃないんだよ」
「何だって?」館の主である老紳士は驚きの声を上げる。「じゃあ、一体誰を…?」
「旦那さんは覚えてる?」少年は懐から一本のボールペンを取りだす。「奥さんの遺体のすぐ傍に、このペンが落ちていたのを」
「え…うーん、どうだったかな」
「うん、まぁ落ちてたんだけどね。実はさっきこいつを拝借してみたんだけど、インクが切れてるみたいで書けなかったんだ」
「あ、ああ…確かに妻は、書けなくなったペンを捨てずに取っておく癖があったが…それがどうしたんだ?」
「あれ?分かんない?俺らにはこれは"書けないペン"だけど、暗がりの中手探りでこいつを見つけた奥さんにはどう思えたと思う?」
「ま、まさか…」
「そう。暗い部屋で奥さんが手にしたのは"遊佐さんの名刺"と"書けないペン"じゃなく、"紙きれ"と"ペン"だった。そうなれば、今わの際の奥さんがすること、想像がつくよね?」
少年は更に鉛筆を取り出し、名刺の上を軽く何度も滑らせた。
「奥さんはちゃんと書いていたんだよ」少年は"マサシ"という文字の浮かび上がった紙を掲げる。「旦那さん、あんたの名前をな」
「なっ…」老紳士は声を詰まらせる。
その瞬間、外から青白い光が差し込む。少年は、小さく笑って言った。
「月の光は、必ず真実を照らすんだよ」

「はい、カットー!!」
監督の声がスタジオ中に響いた。